検索連動型広告のトップシェアだった「オーバーチュア」
2000年代くらいからWebやSEO業界にいた人にとっては「オーバーチュア」という言葉はやや懐かしい響きがあるのではないかと思います。
平成が終わりを迎える現在ではこの30年の間に起こったインターネットの歴史の変遷をまとめる作業が各所で行われていますが、その中でも欠かせない一つの事象として「オーバーチュア」はあります。
「オーバーチュア(Overture)」についてざっとその流れを説明していくと、こちらはもともと「GoTo.com」という名称で運営していたアメリカ発の検索連動型広告の有料検索エンジンです。
GoTo.comが運営されていたのは1998年頃のことで、当時は検索エンジンは無料で利用できるサービスであると世の中に浸透しつつある時期でした。
しかしGoTo.comは有料で使用をすることができる検索エンジンとして運営をされる非常に珍しいもので、自社で運営しているWebサイトを運営者に費用を支払うことにより掲載をしてもらうという手法がとられていました。
1990年代はまだSEO対策も十分に発展していませんでしたし、そもそも大手の検索エンジンが担当者がWebを巡ってそこで検索結果に表示するかどうかを手動で判断するといったことをしていた時期なので、サイトを作っても検索結果に反映されるまでにかなり時間がかかりました。
GoTo.comでは有料で検索エンジンに登録をすることから申請から反映までの時間が非常に短く、また周期的にクローラーが回って情報を収集することからレスポンスの早い検索エンジンとしてかなり注目を受けました。
またGoTo.comでは世界で初めて「Paid Inclusion」という有料検索エンジンとともにクリック連動型広告を行った企業であり、この流れはほどなくしてアメリカから日本にも伝わることになりました。
のちにGoTo.comは検索エンジンへの登録そのものを有料で行うことはやめて、本格的にクリック連動型広告事業へと方向転換をするのですが、このときに変更された社名が「Overture」ということになります。
有料での検索エンジン登録とクリック連動型広告は技術的には近いものであり、そもそも有料で検索エンジンに登録することは「金銭を支払って掲載順位を高めたい」という企業の思惑によるものなので、クリック連動型広告へとシフトするのは当然の流れでした。
日本においてオーバーチュアのサービスを展開したのがYahoo!JAPANです。
2000年代では日本における検索エンジンとしてYahoo!は最大のブランドを持っていたこともあり、Yahoo!での検索順位を上げるためにオーバーチュアを利用するという人が大多数いました。
Yahoo!が展開していた検索連動型広告としては「スポンサードサーチ」や「インタレストマッチ」といったものがありましたが、そうしたものを運営していたのがオーバーチュアとなります。
日本でサービスを展開するようになってしばらくはYahoo!と連携をしつつオーバーチュア株式会社として事業を行っていたのですが、その後Yahoo!から買収を受けて同じ経営母体となります。
ただし買収完了後もYahoo!でのリスティング広告は「オーバーチュア」という名称を残して運営していたので、なんとなく「Yahoo!のリスティング広告=オーバーチュア」というイメージで定着をしていきました。
ちなみに本国米国においてもYahoo!による買収が完了していることから、現在ではオーバチュアという会社はすべて消滅しています。
オーバーチュアからGoogleにシェアが移動
2000年代初頭においてはYahoo!およびオーバーチュアは検索連動型広告の最大手として絶対的な人気とシェアを維持していました。
日本で本格的にオーバーチュアのサービスがスタートしたのは2002年からのことですが、それから2011年までの間はWeb業界における広告・SEOでの必須事項として知られてきました。
実は現在検索エンジン一強となっているGoogleも同じく2002年よりサービスを日本で展開しているのですが、当初はYahoo!の利用者の方が圧倒的に多くそれほど存在感はありませんでした。
しかしその後Googleが検索エンジンの技術を飛躍的に上昇させたことや世間的ニーズの変化もあり、やがてYahoo!は独自の検索エンジン開発をやめて2011年からは配信システムにGoogle AdWordsを利用するようになります。
現在でこそリスティング広告やSEO対策はGoogleのAdWordsやAnalyticsを使うのが当たり前のようになっていますが、1990年代終盤からの検索エンジン黎明期においてリスティング広告という技術を考えついたのはGoogleではなくオーバーチュアことGoTo.comによる考案なのです。
オーバーチュアに広告を依頼することにより、Yahoo!の他exciteやInfoseek(楽天)、mixi、All About、価格.comといった大手サイトに同様に表示をされるようになるという特徴がありました。
2000年代においては検索エンジンは複数の業者が展開しており、それぞれのサイトすべてに表示をされるようになるオーバーチュアは大変利便性の高いサービスであったのです。
オーバーチュアの広告料金の計算方法は、その広告をクリックすることにより発生するというものでした。
特定のキーワードを選んで広告を依頼することにより検索結果に応じてユーザーのブラウザに表示されるようになるので、それをクリックすると課金がされていくというしくみです。
このときに特徴的なのが表示をされたことだけでは費用が発生しないということです。
言い換えれば、広告のしくみを熟知してキーワードを選定していくことで、無料でブラウザに自社広告を表示することができ、それでいてクリックによる費用発生をおさえることができるというテクニックが使えたということです。
企業広告はクリックをされることで自社サイトに訪問者が増えるというメリットがありますが、仮にそうしたクリック行動に至らなくても、よく目につく場所に企業・サービス名が表示されるということは広告として大きな意味を持ちます。
そのため今から10年くらい前まではそうした「クリックをされないけれども広告効果の高いテキスト」というものを作成するためのノウハウが多く伝えられており、専門のセミナーも開催されていました。
連動するキーワードや掲載される広告のテキストは、オーバーチュアのログイン画面から操作をすることができましたが、この時表示される内容が非常に膨大であり、どのように取扱をするかは専門の知識が必要でした。
それとオーバーチュア広告の特徴として、タイトルが15文字、広告文は33文字までという制限があったことが挙げられます。
この15文字でいかに魅力的な内容にするかということもまた多くのWeb担当者が頭を悩ませたものです。
平たく言うとオーバーチュアによる検索連動型広告はかなり専門知識が必要な分野であり、ネットリテラシーがないと素人では扱いにくいものであったということです。
SEO対策業者が日本で多く登場したのもこのオーバーチュアという仕組みが関係している部分が大きく、独自のオーバーチュア対策をうたって顧客を獲得した業者も多く見られていました。
2010年くらいまではオーバーチュア広告はリスティング広告のシェアの約6~7割を占めていましたので、Googleよりもむしろ費用対効果の高い検索連動型広告であったわけです。
それが逆転をしたのは2010年台に入ってからのことで、インターネットにそれほど詳しくない人でも直感的に使用をすることができるGoogleAnalyticsやGoogleAdWordsといったサービスが登場したことによりSEO専門家以外の個人でも気軽に検索連動型広告を出すことができるようになっています。
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